舞台『サイコーのパス』考察と感想

12/16-12/20まで中野ザ・ポケットで行われた『サイコーのパス』の考察を感想も交えつつ書いていこうと思います。


粗筋としては、『山奥にある喫茶店に次々と現れる赤いセーターの待ち合わせをしている男たち。皆、経歴も出身も異なる。だが、待っているのは昔約束をした女性で…』という少しありそうで特殊な舞台の設定。


というのもなかなか、山奥の喫茶店で待ち合わせなんてしませんよね。

舞台を見たことを前提に書いていくので、詳しい話の内容は割愛します。


【タイトルと6人の人物】

先ず、サイコーのパスはそのまま。

サイコパス』が繰り広げる殺人事件の話。

登場人物は6人。

1人は喫茶店のマスター。原田。

4人は誰かと待ち合わせている赤いセーターを着た男。

村上、三浦、小林、大野。

最後の1人は謎の女である。

ただ、これはこの中にサイコパスが2人いるので、それがまた面白い。

先にネタばらしをすれば、1人は一番最初に喫茶店へ訪れた人物、待ち合わせをしている男の1人である村上。IT系に詳しく、ゲームが好き。

もう1人は謎の女である、ひろこ こと、めぐみ。

劇中ではひろこ、めぐみ、マリリン、アミーダの4つの名前がある。

本名はめぐみ。

これは登場人物である三浦の妹の名前と同じであり、生き別れた妹と同じであることは劇中で明白になる。

最初は4人の男が思い出を話すにつれ、それぞれ別の女性ではないかと感じるが、最終的には同じ人物である。


【村上とマスター】

序盤は暫く喫茶店の最初の来訪者、村上とマスターの会話が続く。

このシーンは大事なことが沢山詰まってます。

何回も見ましょう。


①マスク

村上が『シュコー』と音を立てながらしてくるマスクはいいマスク。

「99%除去」のマスクである。

ここで、「ウイルス」「菌」と言わないのがポイントで誰もがこのコロナのご時世だから、そう思い込む。けれどそのマスクは「一酸化炭素」を除去できるマスク。(実際はもっとごついのじゃないと厳しいとは思うが舞台いうことで。)

そのマスクは最後のシーンで大活躍するのでパンツにしまいます。

初見の時は(鞄にしまわないんですか?)と心で突っ込みました。


サイコパスになり切れない村上

席に着いた村上に「登山ですか?」と言うマスター。

即座に「違いますよ。」と村上は返すが「そんな格好で登山しようとしたら、珈琲に毒を入れてやるところでしたよ」という返しに驚く村上だが、結構オーバー気味なリアクションである。

これはこの後、自分が計画している殺しの手法の一つだから、ここまで驚いたのだと思われる。(後述に詳しく書くが村上が小林を殺したのは毒入り珈琲である。)

多分、普通の人ならもう少し落ち着いて対応する。


③L'Arc~en~Ciel

村上と待ち合わせの人がいい雰囲気になったら、音楽を流しましょうか?

という時に出てきたのが「あなた」と「BLESS hydelesver.」である。

ここでhydelesver.に付いて少し長めに喋るのだが、L'Arc~en~Cielのhydeジキル博士とハイド氏hydeと同じ綴りな事に掛けてるようにも感じた。

というのも、この時点の村上はサイコパスhyde)を消している(les)状態。本当はサイコパスなのである。

そして、調べてみると偶然かもしれないが、ジキル博士とハイド氏の翻訳者に『村上』という人もいる。

また、謎の女であるめぐみが小林と付き合っていた時は、『マリリン』と名乗っていた。

20年ほど前の作品になるが、ジキル博士とハイド氏を元にした『メアリー・ライリーの恋~ジキル博士とハイド氏~』という作品もある。

メアリー=マリー=マリリン。

となっても不思議ではない。

ただ、マリリンは村上にとっては、ハイド氏やジキル博士が恋したメアリーであったけれど、実際はhydeだったのだが…。


私は貝になりたい

これは往年の名作ですが、マスターが何回かこれを口にする。

私は貝になりたいは主人公が戦時中に捕虜を殺したというC級戦犯の理由で逮捕され死刑されるまでを描いた作品。

でも、実際には殺せなく、怪我を負わせたのみ。


こういった背景のある作品名を言うことが、マスターの存在理由を暗喩しており、存在理由を明確化しているのかなと感じた。

つまり、マスターは三浦大野を殴りはしたけれど、誰一人殺していない。罪を擦り付ける為だけのただの駒だった。


店長の鼻歌リストが欲しいです。笑


【謎の女】

劇中でほぼほぼネタばらしされているので、考察も何もないのだが、食材を集めに行くところ。

きっとこれも彼女の計画に入っているのが怖い。

彼女は小林、大野、村上の顔は知っている。

(村上の場合は事前打ち合わせしているため知っていると仮定。)

なので、残りの1人である三浦だけ顔が分からない状態なので、残りの赤い服が自分を父親と2人にした兄だと確信できる。

つまり、三浦を突き落としたのは、兄だと分かって殺意があっての行動。


彼女が仏教のアイドルをやっていたことは最大の謎ではある。

ただ、解脱したかっただけかもしれない。

そして、死んでも、輪廻転生しても、約束を守ってくれれば4人の、4人以外の誰でも良かったから救って欲しかったんだろうとも思える。

彼女にとっては、3人は婚約者で兄に会わせる約束は本当で、ただただ兄への復讐の駒にされたのがその3人だった。

好きだった赤いチューリップ色のセーターを目印にしたのも、昔の思い出がそうさせたのだと思うとまた悲しい。


最初はコミカルで楽しかったけど、怖気と悲しさの残る舞台でした。