舞台『BIRTHDAY』感想

ウェーブマスター所属の役者、平野良さんの初演出作。



ビジュアルなどを見て、最初はシリアスかと思ったのですが予告動画が出て、いやこれは違うなーと思って初日を見たらコメディだけど、コメディでありつつ照れ隠しなシリアスでした。


【物語と人物、演出】

何らかの試練を課された者たちが今度こそ合格だと思って、喜び合うところから物語は始まる。

観客は初め疎外感というか、取り残された気持ち。

あれ、蚊帳の外かなって。


でも徐々に物語の一部へとなっていく。


登場人物は全員で10。


一人一人名前を呼び合うことはなくて、でも、物販コーナーやパンフレット、台本にはおまけのように名前は付いている。


これはただの記号。


私にはこの話が群像劇に思えたけど、意図してそうなったのかは分からない。


種明かしをしないが故にそう思えるのかもしれない。



そんな名前のない彼等はまだ産まれる前の、まだ人の形すら得ていない【精子】。



つまり、これは精子の生存をコミカルに、でも真摯に描いた物語。


物語が全体的にコメディたっちで進んでいくけれど、所々出てくるキーワードでこの世界観を想像したり、課される試練がなんなのか、演舞や照明やの演出の意図、そういった考える面白さだったり、メインとしていた人が退場していき、黒子というアンサンブルになり、SEBGMやに参加する視覚的に体感的に、生で観る面白さ。




パンフレット内で平野さんが形容していた赤いテントで観るような面白さが詰まった良い作品で大衆演劇というのが腑に落ちる。



ただ、初回観た時、「コミカルな部分を女性である私が笑うことで、板の上の彼等にはシニカルに思えてしまうんではないか。」なんて思った。

母体の胎内で起こっていることで客席から離れて考えるとそう感じてしまい、けれど、客席に入れば普通にたくさん笑える。そんな考え、会場外。

それも役者さん全てのポテンシャルが高くて、急なネタ振りもトラブルも笑いに変えていくからでしょう。



【演出意図】

話の流れも導入で「何かを掛けて争っていて、誰かが脱落する」と言うのを馴染みのある椅子取りゲームで観客にわかりやすく刷り込みしていて純粋に凄い。


そして、徐々にただの振り落としから、性格で選定されていくようになり、「世界」というキーワードが出てくる。

この世界から脱出して別の世界へ行く。

何処へ?

勿論コミカルな部分だけを観て、何も考えず観る一公演も楽しい。

でも、『世界』やら、脱落の理由やら、なにやらを考え出すと二公演目からはより楽しかった。



何度目かの試練で水に落ち、泳ぎを印象付けるところ。

台本(原案)だとマイムと書かれていたのですが本編は祭りの掛け声で円舞。

小道具とかの音が和の雰囲気が高いから、そう日本の祭りの方に擦り合わせて来たのかなー?とか、わっしょいよりソイヤのほうがしっくりくるからかなー?

とも思って見ていたのですが、オタクの悪くも良いところで何事も理由付けしたくなり、「ソイヤ」。調べました。笑

「素意成」、「素直な心を持って成とする」。今回の舞台にも合っていて、素直に良かった。


【生命の鼓動】

最後、どんどん人が振り落とされて主人公が残って胸を抑えると皆が足踏みするところ。


生命が宿って鼓動を始める。


その表現。


ここが特に好きで9回みても好きでした。

身体に直に伝わってくるから、自分まで新しい生命の誕生の瞬間に立ち会えた喜びのようで。


何億分の一に選ばれて走り出した先の先に待つ、最後を共にした二人。


光の道の前に左右に立つ。


これは仁王像で、阿吽。

だから、彼らの立つ場所は鳥居であり、仁王像であり、その先の光の道は産道(参道)。

だから、そこに立った主人公は光より外には出ない。



こう、パンフレット読むまではテーマを、「生命」とか「生きる」とかそういうふうに受け取っていました。

「愛」と聞いて見方が少し変わりました。


最後のイチの叫びはきっと観た方の心に届いたと思います。


何億分の一に選ばれた全員が産まれて、今生きていること、そのものを祝福してくれている。


大きくて深い「愛」でした。


素敵な舞台を観られて嬉しかったです。



舞台BIRTHDAY、お誕生日おめでとうございました。